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「知る/みる/考える 私たちの劇場シリーズ」 vol.4「わたしのほころび」百瀬文にインタビュー

12月15日(金)から17日(日)まで、「知る/みる/考える 私たちの劇場シリーズ」 vol.4 百瀬文「わたしのほころび」を開催します。これに先立ち、作品を手掛けたアーティスト・百瀬文さんにお話を聞くことができましたので、ご紹介します。
 
久留米の街をどのように感じられましたか?
 

〈百瀬〉久留米に来たのは2回目で、今回は博多と天神を歩いてから久留米に来ました。結構雰囲気が違いますね、久留米は個人で一から作ったという手作り感があるお店が多いです。その際トークゲストとして生涯学習センターで行われていた女性週間の催しにも訪れましたが、市民のみなさんが主体的に関わっていて、市民活動の意識が高い場所であると思いました。

 
3つの映像作品の展示と参加型パフォーマンス『定点観測』からなるプロジェクト「わたしのほころび」ですが、久留米ではどのような方に体験してもらいたいですか? 
 

〈百瀬〉最近は2023年6月に青森県十和田市、12月に福岡県久留米市と、首都圏以外の場所で作品を展示する機会が増えています。私が扱っている問題は、セクシュアリティやジェンダーなど目まぐるしく知識が更新されていきます。その状況において首都圏だけで活動することには葛藤を感じています。それは、知識にアクセスできる文化資本のある家に生まれるということであったり、あるいは価値観を共有できる土地の優位性があったりするということです。私の偏見かもしれませんが、九州の一部の地域には男尊女卑の傾向が強いイメージがありましたので、私の作品が見られた時には、誰かにとってある種切実な部分にアクセスするかもしれないと考えています。現代では誰もがスマートフォンを持っていて、どこに住んでいても最新の知識や世界中のアクションなどの情報が届きます。けれども、自分が住んでいる土地の因縁めいた状況とのギャップで苦しんだり、いろいろな抑圧を感じさせられたりすることがあるだろうと思います。そういう人たちに「大丈夫だよ」「ここにいるよ」と何かを言ってあげたいです。必ずしも知識がなくても「この気持ちをわたしも知っている」というような、もう少し普遍的な感情から作品を見てもらえたらと思います。言葉になる前の違和感を覚えながら、日々を生きている人にこそ届いてほしいと。

 
『定点観測』ですが、久留米で行うにあたって、新しい試みがあるそうですね。
 

〈百瀬〉十和田で展示*した『定点観測[父の場合]』は、あるアンケートに答えるというプロセスを私の父親という“特定の個人“に行ったもので、個人の記憶に寄ったパーソナルな作品です。『定点観測』を久留米で行う際は、“市民“というものについてもう一度考えてみたいと思いました。久留米には「市民である私たちが劇場を持っている」「街の真ん中に劇場がある」という意識があるのでは?と想像し、ひとりひとりの手で、ある瞬間を立ち上げる群像劇のようなものに出来たらと考えています。そこで、時間を少し長めにしたり、アンケート項目を増やしたりします。また、劇場で初めて『定点観測』を行うにあたり、参加者と鑑賞者という2つのチケットにしました。先ほどまで隣にいた人が、舞台上にいる状態にもなります。最終的には“見る/見られる”という関係がない状態が作れたら面白いと思っています。劇場ならば照明が使えたり音声の演出が変えられたりして、中央にいる人にフォーカスがあたるので、違う見え方になってくるのではないでしょうか。

*百瀬さんは、2022年12月10日から 2023年6月4日まで、十和田市現代美術館(青森県)で「口を寄せる」と題した美術館個展を開催。

 
今回は3つの映像作品の展示もあります。『定点観測』と合わせどのように体験すると良いでしょうか?
 

〈百瀬〉いずれも思うままに見て欲しいです。私の中では、映像作品を見せること、パフォーマンス作品を見せることの間に差はないです。もしかしたら、参加型パフォーマンスを体験した後に映像作品を見たら、何かがパフォーマンスされているように見えるのかもしれません。映像というものに対する見方が、ちょっと変化したりしているかもしれません。作品自体よりも、その作品を見終えた後の世界の見え方が変わることのほうが重要な気がしています。そういった経験を他の人とも共有できる機会になれば良いと思っています。

百瀬 文(ももせ あや)

1988年東京都生まれ。映像によって映像の構造を再考させる自己言及的な方法論を用いながら、他者とのコミュニケーションの複層性を扱う。近年は映像に映る身体の問題を扱いながら、セクシュアリティやジェンダーへの問いを深めている。主な個展に「百瀬文 口を寄せる」(十和田市現代美術館、2022年)、主なグループ展に「国際芸術祭 あいち2022」(愛知芸術文化センター、2022年)、「フェミニズムズ/FEMINISMS」(金沢21世紀美術館、2021年)、「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」(森美術館、2016年)など。近年は、ACCの助成を受けてNYで滞在制作を行ったほか、イム・フンスンと共同制作した『交換日記』が全州国際映画祭に正式招待されるなど、国内外で活動を行う。主な作品収蔵先に、東京都現代美術館、愛知県美術館、横浜美術館などがある。

 

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「知る/みる/考える 私たちの劇場シリーズ」 vol.4「わたしのほころび」百瀬文にインタビュー

2023年11月19日