『十二番目の天使』井上芳雄さんにインタビュー
“ミュージカル界のプリンス”と称される福岡出身の井上芳雄が、舞台『十二番目の天使』で再びザ・グランドホールのステージに戻ってきます。東京公演は大好評のうちに閉幕。地方公演を目前に控え、東京公演の手ごたえや意気込みを語っていただきました。舞台写真とともにお届けします。
―東京公演が無事閉幕。男性のお客様が多い印象がありますが、手ごたえはいかがでしたか?
各回によって反応は様々ですが、こんなにすすり泣きが聞こえる舞台は初めてです。それぞれが大切な人を思い出しているんだけど、それは決して悲しい思い出だけじゃなくて、懐かしかったり、どこか温かかったり…。毎公演、最後は誰かを偲ぶ会に来ているような、そんな雰囲気になるんですよ。特別な作品というか、表現の形態も含めて初めての感覚です。
―そういう感覚を受けて、役づくりや芝居に反映することはありますか?
ジョンはジェットコースターのような人生を経験して、すごく極端な状況にある人。原作の全てを再現するわけではないし、言葉だけのシーンもたくさんあるので、稽古中は「伝えなきゃ」って気負いみたいなものが強かったんですが、本番ではお客様が自然と感じ取ってくださるんです。僕が舞台に立って、そこにいる人たちと話しているだけでジョンの人生が流れていく。「気負わなくても伝わる」という自信を、お客様からいただいた気がします。
―今回の役は台詞の量がとにかく膨大ですが、もし今、悲しみの中にいる人を励ますとしたら、どんな台詞が響くと思いますか?
亡くなったサリー(妻)とリック(息子)に向けた「自分を憐れに思うことは、もう止めにする」かな。大切な人を亡くすと、「何で自分だけ悲しい目に」と自己憐憫に陥りやすいし、「死んでしまって可哀想」と憐れんだり、逆に誰かから憐れまれたり。でも、この作品のテーマの一つでもあるんですが、「亡くなった人たちは、決して悲しいところに居るわけじゃないよね。そこはすごくいい場所で、ただ先に行っちゃってあなたを待っているだけ。だから生きている限り、一生懸命に自分の幹を太くし、枝葉を伸ばして行こう」って伝えたい。「自分を憐れむのは止める」ってとても難しいけど、大事なことだと思います。
―井上さんは福岡のご出身。『ダディ・ロング・レッグズ』で、ザ・グランドホールの舞台に立たれていますね。
「久留米にこんなに本格的な劇場が出来たんだ」という驚きはありましたが、街の中にドーンとあるし、劇場の皆さんもすごく熱意のある方ばかりで、街ぐるみで劇場を良くしていこうという気持ちを感じました。同郷として、応援しています。
―最後に、久留米の皆さんに一言お願いします。
東京で開催される多種多様な公演を福岡でもお届けしたいと思っていたので、『十二番目の天使』で久留米に行けるのはすごく嬉しい。今回はミュージカルではありませんが、最後に歌うシーンもありますし、とても素敵な作品です。大切な人との別れというのは、残念ながら誰しも経験すること。いざという時に役立つというわけではないのですが、困難が続いている時に、「どうやって明日を元気に生きていくか」というアイデアと言葉が詰まっています。最後は希望を見つけて終わる作品なので、ぜひ、皆様ご覧ください。
●Profile
福岡市出身。東京藝術大学在学中の2000年にミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役で鮮烈なデビューを果たす。その後、高い歌唱力と存在感で数々のミュージカルや舞台を中心に活躍。近年ではテレビや映画等映像にも活躍の幅を広げ、俳優として高い評価を得ている。第20回日本映画批評家大賞舞台ミュージカル大賞ほか、受賞歴は多数。