『人形浄瑠璃 文楽』の人形遣い 五代目吉田玉助さんにインタビュー
文楽は江戸時代の庶民の娯楽。
ワイドショー感覚で楽しめます。
人形浄瑠璃文楽は、日本を代表する伝統芸能の一つで、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。その歴史は江戸時代初期にさかのぼり、古くは「あやつり人形」、その後に義太夫節(浄瑠璃の一つ)と結びつき「人形浄瑠璃」と呼ばれるようになりました。文楽の舞台は、語りを担当する太夫、三味線弾き、人形遣いの三業で成り立っています。今回お話を聞いたのは、人形遣いの五代目吉田玉助さん。堂々たる体躯に品のある佇まい、軽妙な語り口からは人懐こい人柄がうかがえます。
自分を演じながら人形を操る。
人形遣いは“天職”です。
●文楽が大阪で栄えてきたのはなぜ?
文楽は江戸時代の庶民の娯楽で、今ならTVのワイドショーのような感覚かな。いわゆる判官びいきというか、単純明快で風刺が効いた話が支持されました。例えば赤穂事件を題材にした「忠臣蔵」は、武家社会の江戸では取締りが厳しくてやれない。でも、町人社会の大阪なら、実在した“大石内蔵助”の役名を“大星由良之助”に変えれば許されたりして。ゆるかったんですね。
●文楽では一体の人形を三人で動かしていますが、それぞれの役割を教えてください。
人形のかしら(頭)と右手の担当が「主遣い(おもづかい)」、三人の中では指揮者の役割で、顔を出している人です。左手の担当が「左遣い」、両足の担当が「足遣い」、この二人は黒子です。足遣い→左遣い→主遣いの順で修行を積むのですが、だいたい足遣いを15年くらい経験して、左遣いが同じくらいの期間かかります。単純に2つで30年という計算ではなく、ある程度上達したら次の段階を並行して練習という流れです。いきなり主遣いにはなれません。
●唯一顔を出している「主遣い」も無表情です。
人形遣いは人形の邪魔をしてはいけないので、自分の感情を顔に出さずに人形を動かしています。黒子は頭巾で顔が隠れてますが、かなり過酷なので、耐えてる顔してますよ(笑)。
●人形の重さはどれくらいあるんですか?
重い時は約8〜10kgを超える人形を支えているので、腕とかすごくしんどいんですよ。衣装を重ねるほど重くなるので、女性の衣装、特に打ち掛けや花魁はものすごく重たいです。
●豪華な衣装はお値段も高そうですね。
ものにもよりますけど、かしらだけで最低30〜40万。それに髪の毛が30万、羽織100万、着物100万…とオプションがどんどんついていくので、高いものですと300万円超えます。中には、羽織だけで300万するものもありますね。
●普段はどんなお稽古をしているの?
人形遣いは三人一組なので、一人ではお稽古できません。その三人も常に同じメンバーではないんですが、サインが統一されているので誰と組んでも出来ます。太夫や三味線と合わせるのも、公演前日に本番同様の通し稽古を一度やるだけ。お互い協調して合わせるという意識はなく、舞台上では太夫の語るとおりにやる。芸と芸をぶつけ合うというか…バトルですね。
●玉助さんにとって、人形遣いとは?
天職です。幼いころから一番身近にあったのが文楽。人形は僕の分身ですから。人形遣いは感情も声も表に出せないので、自らを演じながら、魂を込めて人形を操っています。人形が僕の代わりに表現してるんです。
●今回の公演の見どころは?
演目の『義経千本桜』は1日通しても足りないくらい長いお芝居なんですが(笑)、昼の部は人情噺、夜は舞踊劇という風に思っていただけたら。『野崎村』は三角関係の恋物語ですね。文楽は大人のための人形劇。人によって人形の動きが変わるし、太夫の語り口や三味線の音も違うので、どこを見ても誰を見ても楽しいと思います。ぜひ、生の舞台を観ていただきたいです。
【よしだ・たますけ】昭和55年 7月 吉田玉幸に入門、吉田幸助と名のる。昭和56年 4月 朝日座で初舞台。平成30年 4月 国立文楽劇場において、五代目吉田玉助を襲名。受賞歴は、第34回(平成26年度)国立劇場文楽賞文楽優秀賞、大阪文化祭賞奨励賞(平成23年)など多数。