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【 ユースプログラム「新しい演劇鑑賞教室」(後期)①レポ―ト】

演劇作品の鑑賞と参加者同士の対話などを組み合わせたユースプログラム「新しい演劇鑑賞教室」後期が10/12(土)にスタートし、25歳以下の若者17名が参加しました。

進行は本プログラムの監修も務める長津結一郎さん。今回取り上げる作品は、困窮者を支援する北九州のキリスト教会を舞台にした『重力光:祈りの記録篇』。映画監督でアーティストの石原海が、様々な困難に直面する人々の生と、そこにある祈りの在り方を描き出したドキュメンタリー映像作品です。
長津さんは、「作品の背景にある"居心地のよい場所"を考える前に、"居心地が悪いこと"とは何かを考えましょう」と提案。5つのグループに分かれて話し合い、"居心地が悪いと思った出来事"をジェスチャーだけで表現しました。発表するグループ以外の参加者たちは、それがどんな場面なのかを推察します。

写真の中央に倒れている女性、そして女性を見守るだけの人々…。これは、「知らない人ばかりの場所で派手に転んでしまい、誰からも声をかけられず、一人で恥ずかしかった」という出来事。ほかにも「美容室でたくさん質問をされ、何をしゃべっていいのかわからず困ってしまった」「満員電車内で他人と接触しそうで物理的にも心理的にも辛かった」などがありました。
 では、なぜ"居心地が悪かった"のでしょう。原因と理由を考察する中で、場面は違えども、「一人でいることの疎外感」「パーソナルスペースに意図せず他人が入って来て恥ずかしくなる」「人の視線が気になる」などが共通していました。

次に、"居心地のよい場所"について考えます。「よい香りがする」「リラックスできる自然がある」といった環境面や、「受け入れられていると思うとき」「好きな人や好きなものに囲まれているとき」など人間関係を挙げる人。更に具体的な場所として、図書館、居酒屋のカウンター、自分の部屋などが挙がります。
長津さんは「たとえ同じ場所であっても、その人を取り巻く環境や人間関係によって、何が居心地を良く、悪くさせる場所であるかが異なります。だから一人でいる事が=居心地が良いとは限らない」と話し、「これを踏まえて"居心地のよい場所"について地域活動に尽力されているお二人のお話を聞いてください」とプレレクチャーへ繋げます。

イントロダクション終了後、参加者たちは一般参加者11名とともにプレレクチャー「劇場で考える~居心地のよい場所~」を受講。今回のゲストは、地域社会における孤立や孤独について、公私の垣根を超えて働き掛けてきた2名です。
 
まず登場したのは、國武竜一さん。うきは市社会福祉協議会職員として働く傍ら、『NPO法人ホームレス支援福岡おにぎりの会』で支援活動に参加。福岡市内の公園を中心に夜回り活動を行い、生活困窮者に声をかけながら豚汁、おにぎりなどを提供しています。
 冒頭、「野宿生活者のお友達、お知合いがいるという方はいますか?」という國武さんの問いに対し、会場は沈黙。「誰もいないということは、彼らはマイノリティであり、社会と断絶された状況下に置かれているということ」と語ります。

國武さんが担当するのはベイサイドエリア。スライドには、自らの食糧もままならないのに、日銭を稼いで捨て猫の世話をするホームレスの様子が映し出されます。海沿いの倉庫街や公園は暑さも寒さも過酷で命に係わる環境ですが、彼らには"居心地が悪い場所"を選ばざるを得ない理由がありました。「絶縁した家族や親戚に迷惑をかけたくないという"過去の重荷"を背負っているから、いくら支援住宅の話をしても誰も頷かない」と口惜しそうな様子。
「家がないことは不幸かもしれません。しかし家があっても孤独を感じたり、不幸な人はいます。"居場所"とは建物ではなく、自分の話に耳を傾けてくれる人がいるところ。良好な他者との関わりがあるところが、"居心地のよい場所"ではないでしょうか」と問いかけました。

続いて、江田由貴子さんの登場です。江田さんが主宰する「スナックうずしお」は柳川にあるコミュニティスペース。もともと空き店舗で廃屋寸前だった釣具店を、別の空き家から譲り受けた資材で自らリノベーションし、"いい感じの場所"に整えました。

「10代の頃、自分にとって自宅は居心地のいい場所ではなかった」と語る江田さんは、20代になると海外へ赴き、世界にはいろいろな価値観や文化、考え方があることを知ります。30代で海外協力隊として2年間モンゴルに滞在。目的は作業療法士のスキルを伝えることでしたが、「モンゴルには日本と違って福祉の法律も制度もないしバリアフリー対応の施設もないけれど、困っている人がいるとコミュニティで助け合って解決していた。自分も福祉を軸に、いろんな人が関わって助け合えるコミュニティの場をつくりたかった」と振り返ります。

オープン当初は海外アーティストを招いたりお酒を飲んだり、多様な人々が集う夜のイベントを開催していたスナックうずしおですが、自身に子どもが生まれたことで、ライフステージに合わせてシフトチェンジ。今では地元・柳川の子どもたちがアートを通じて遊べるワークスペースとなり、イベントも昼間に実施しています。江田さんは「私にとっての"居心地のよい場所"は、自分だけでなく、多様な人にとって居心地のよい場所です」と笑顔で語りました。

進行の長津さんは、「"居心地のよい場所"とは人によって異なります。居心地が悪い人の状況は、居心地がよい人には全く見えない。モンゴルに、居心地が悪そうな人を察して理解できる文化があるように、居心地のよい場所を作るのは文化の一つではないかと考えます。久留米シティプラザも文化施設。今回のレクチャーで、居心地がよい関係性を育み合える文化を作っていくヒントをいただきました」と締めくくりました。

一般参加者が退出後、ユースプログラム参加者はゲストを交えた感想シェア会を実施。
大学生から國武さんへ「どうして他人のためにそこまで支援活動ができるの?」という質問が飛ぶと、「そもそも支援ではなく、友達に会いに行っていると思っている。毎月会っておしゃべりをして、ラーメンを食べて帰ってくるのが日常のルーティン。20年間続いているのは楽しいから。実際、ジムは2日で辞めてます」との回答。会場に笑いが起こります。

また、ある大学生が「自分も自宅で居心地が悪く、家族とは関わらないように、我慢しようと思ってやり過ごしてきた。どんな選択が正しいの?」と江田さんに問いかけると、「これといった正解はない。悩んで葛藤していたことがその後、人生で生きてくることもある。失敗するのはよくないと思われがちだが、失敗する方がいろんなことを深く学べると思う。考える時間が学びになりますように」と答えました。

最後に長津さんが「本日は"居心地のよい場所"を長時間かけて考えてきました。みなさんで共有したことを念頭におきながら、映画を鑑賞してください」と声をかけると、会場からは2名のゲストに対する感謝の拍手が沸き、ユースプログラムは終了しました。

 [感想より一部紹介]
・居心地の良し悪しについて、こんなに考えることはなかった。周りの人との考えを共有して深めることで、いろんな意見を知れて良かった。
・自分の生きやすさや生きづらさに注目し始めるところからストレスが減ってくるだろうし、どう改善すべきか見つかるのではないかと思った。
・自分だけでなく、他人の居心地も考えることで見えるものがありました。今の居場所を大切にし、居心地のよい場所を広げたいと思った。

[ゲスト]
江田由貴子(スナックうずしお主宰/作業療法士)
國武竜一(NPO法人ホームレス支援福岡おにぎりの会・ベイサイドコースリーダー)

[進行]    
長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)

 

【 ユースプログラム「新しい演劇鑑賞教室」(後期)①レポ―ト】

2024年11月28日