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ユースプログラム2024「新しい演劇鑑賞教室」(前期)②レポート

久留米シティプラザでは、若者が作品を鑑賞するための入口づくりを目指して、作品鑑賞と参加者同士の対話などを組み合わせたユースプログラム「新しい演劇鑑賞教室」を実施しています。
 

2024年6月15日(土)に開催したユースプログラム「新しい演劇鑑賞教室」前期②(対話の時間)の様子をご紹介します。

 今回取り上げた「ライカムで待っとく」は、アメリカ占領下の沖縄で起こった米兵殺傷事件に基づくノンフィクションに着想を得て、沖縄在住の劇作家・兼島拓也が書き下ろし、沖縄に出自を持つ田中麻衣子が演出を手掛けた作品です。「沖縄の犠牲の上に成り立っている日本という国」という想いを織り込んだ本作には、沖縄の問題に対する複雑な現実が描かれていました。
 作品を鑑賞後、お互いの感想を共有する「対話の時間」には、高校生を含む25歳以下の若者16名が参加。進行役は企画監修の長津結一郎(九州大学)さんが務めました。
 冒頭「作品の鑑賞前後に自分の中で変わったことや作品の感想など、思ったことを自由に発言してください。また、他の人の意見を聞いて考える時間にしてもいいです」と長津さんから提案があり、フリートーク形式でスタート。参加者は作品に対する思いを、自ら言葉にしていきます。

 開始直後は「感想を言いづらいし、口に出すのが難しい。沖縄の問題は、自分ごとではないけど、演劇という直接的な表現を観たことによって、自分ごととして取らざるを得ないと迫られているように感じた」「心に響いてくるものが多く、言葉を整理するのが難しい。差別とは、人を見下して自分を安心させるためのものでは?ということに気づいて自分の未熟さを知りました」など、全体的に発言者が少なく戸惑う様子。 長津さんは「言葉にしづらいという共通の感想がありましたね。」とホワイトボードへキーワードを綴っていきます。

 続いて劇中のセリフや気になった事を取り上げていきます。 ある参加者は「沖縄で飲み会を開いて楽しく過ごしているところに、突然友人がアメリカ兵から暴力を受けているという知らせが入る場面が、自分にとっては非日常的だと思った。演劇を通して私自身が当事者になり、沖縄の事が自分ごとになった気がした」と気づきを語りました。

 またある参加者は沖縄の住民が言った「神奈川の人は大人だから」というセリフに注目。(大部分の返還が進み)かつて横浜が米軍の街であったことを忘れている神奈川県民を揶揄する言い回しや、昔も今も基地や負担を強いられる沖縄の現状に「大人になることは、あきらめることが増えるということなのか?」と疑問を投げかけました。

 “演劇”という表現形式に着目した参加者は、「映画だとスクリーンという境界線があり、作品の第三者として鑑賞するが、演劇は目の前で見ることで、作品を通じて私たちも当事者になった。舞台として鑑賞できて良かった」と話しました。 長津さんは「この作品は、演劇で上演することで鑑賞者に迫るものがあって、これは君たちの話になるのかもしれません。」と語りました。

 舞台セットに着目した参加者は「舞台上には常に段ボールが積まれていた。作品と関係ない荷物が置いてあるのかと思ったが、物語が進むにつれ、危険なものがすぐ横にあるという暗示か、もしくは“沖縄は日本のバックヤード”という象徴ではないか」との感想。

 また、作品の背景にある「他人(ひと)ごと自分ごと」について、主人公・浅野の変化が見られたとの意見も出ました。沖縄に到着した浅野がタクシー運転手に「沖縄の人が抱えている問題に寄り添いたい」と伝えた場面で、浅野の「寄り添う」とは憐れむことで、それは自分ごとではなかったと指摘。

 終盤で浅野の娘が沖縄で行方不明になった時に、彼にとって他人ごとだった沖縄の問題が、初めて自分ごとになった瞬間だったという感想も。「日常生活でも同じ境遇にならないと自分ごととして捉えられない」などの気づきがあったようです。

 長津さんは「いろんな人の意見を聞いて、自分とはものの考え方が違う人がいると知るきっかけになったと思います」と話した後、後方で見守っていた作者の兼島拓也さんを紹介。兼島さんは「皆さんの感想を直接聞くことができ、演劇を作る喜びを改めて感じました。作品をいろんな角度から見ようとしていてすごいなと思いました」と挨拶。続けて「作品は人に観てもらうことで完成します。作品を通して何かを受け取り、そこからさらに思考を広げてもらえたら嬉しいです」と思いを語りました。

 プログラム終了後、兼島さんの周囲には思いを伝えたい参加者たちが次々に集まり輪ができました。一人一人の質問に耳を傾け、丁寧に回答をする兼島さん。

 参加者たちからは「対話の時間は、頭の整理が出来た。兼島さんに自分の思いや気持ちを伝えることが出来て良かった」と喜びの声が届きました。

 

 好評のうちに終了したユースプログラム2024「新しい演劇鑑賞教室」(前期)。参加した学生たちの感想を紹介します。

・対話、議論を重ねることで、考えがまとまりました。プレレクチャーで身近な『自分ごと、他人(ひと)ごと』について考えたからこそ、沖縄(ライカム)について考えをまとめることが出来て良かった。

・今回の演劇を観て終わった直後はなかなか言葉がまとまらなかったが、いろんな意見を聞いて、少しずつ自分の中で理解が出来た。

 

 

[進行]
長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)
 

ユースプログラム2024「新しい演劇鑑賞教室」(前期)②レポート

2024年08月16日