「久留米で出会う狂言の会」野村萬斎・裕基親子にインタビュー
※当日券は全席種(バルコニー席含む)あり。9月24日 14:00からザ・グランドホール前で販売します。
〈萬斎〉ザ・グランドホールはとても音響の良い劇場です。残響が多い(長い)中、大勢で話したり群読すると言葉が重なりすぎてしまうので、少しゆっくり話すのがコツ。狂言は小さいファミリーでやっていますから、どのような環境でも対応できます。
〈裕基〉変声期で苦労した時期もありましたが、最近は声が安定して父に似ていると言われることが増えました。周囲が就職活動をする中、改めて私も志を固めたのですが、社会人になり本腰を入れて狂言と向き合うことで決意できたこともあると思います。
〈萬斎〉狂言は、役者の発する声と肉体、衣装があればどこででもできる素手の芸(トランクシアター)とも言えます。演目によっては2~3人で足るほどシンプルなので、機動力を活かして皆さんにご覧いただく機会が増えればと思っています。
〈裕基〉言語や文化の違う多様な人々と触れ合う機会が多い現代で、自分の国の伝統芸能がどのようなものかを説明できるようになっていただけたら嬉しいです。今回は親子三代の共演ということで、90代の祖父から20代の私まで世代を超えて伝統芸能が継承されているということも知っていただけると思います。
〈萬斎〉『二人袴』は、婿とその父親が嫁の実家に招かれる話です。二人で舅に挨拶したいんだけど袴は一つ。現代に置き換えると、スーツを着なきゃいけない場面でジャケットが一枚しかなくて、とっかえひっかえ交互に出ていくイメージですね。最後はバレてしまうんだけど、皆が温かく受け入れるというめでたい笑いです。慣れない儀式の中で初々しい作法だったり失言だったりが微笑ましくて、現代でも「あるある」と共感していただけるような定番の演目を、今回は「三段之舞」という小書(特殊演出)でお囃子方が賑々しく盛り上げてくれます。
〈萬斎〉田中さんは国立能楽堂の能楽研修の出身で東京にいたころからの縁。彼の地元で共演できるのはとても嬉しいです。一調「貝尽し」は彼の師匠・故 観世元伯さんと私が作った作品で、田中さんの太鼓と私の謡だけという演奏形式です。竜宮城で貝の精と酒盛りをしている謡で曲もカッコいいので、観て聴いて楽しんでいただければと思います。
〈裕基〉若い方には「伝統芸能=難しい」と思われがちですが、狂言では日本語の耳心地の良さや抑揚の美しさを感じることができると思います。難しい言葉も出てきますが、今回は日々人間が生きている喜びを感じられるような、わかりやすい演目を揃えました。高いところからでも後ろの席からでも、どの角度から見ても面白いと思います。
〈萬斎〉わからないことはいけないことのように思われがちですけど、狂言はシチュエーションコメディなので、教科書のように一字一句をわかろうとする必要はありません。少し聞いて耳が慣れれば楽しんでいただけると思います。我々の息遣いとお客様の息遣いが一緒になることでライブの良さが出るので、ご自身も参加するつもりでご覧いただきたい。狂言は700年近い歴史がありますが、当時も今も人間はさほど変わらないということを感じていただけるのでは。普遍的な価値観と洗練された笑いをぜひ体感してください。
野村 萬斎(のむら まんさい)
野村 裕基(のむら ゆうき)