『みみばしる』インタビュー【後編】「松居大悟、16年ぶりの久留米へ」
J-WAVE開局30周年プロジェクトとして、『JUMP OVER』の番組内でリスナーと共に創作中の舞台『みみばしる』。インタビュー後編は、中高生時代を久留米で過ごした松居大悟が、取材中に語った久留米の思い出や凱旋公演へ向けての意気込みなどをお届けします。
[後編] 松居大悟、16年ぶりの久留米へ
―音楽監督の石崎さんと主演の本仮屋さん、お二人から受ける刺激は強いのでは?
松居:年齢が近いせいか、見てきた景色や共通言語が多いし、良い意味で気を遣うこともない。本職が違うことも手伝って、お互いに持っている言葉が違うのも刺激になっています。三人を中心にキャストやスタッフがいて、さらにリスナーがいて、大きな円が出来上がっていくイメージ…特殊な命の塊ですね。
―リスナーに呼びかけ、800名以上の応募の中から選んだ19名のキャスト。決め手は?
松居:ラジオを愛しているかということと、この舞台のテーマでもある「境界線を越えたい」という思いかな。人生において一歩踏み出そうとしている方や、舞台上で“ラジオ愛”を担ってくれる人とご一緒したかったので。
―“愛”といえば、昨年の松居さんの作品は、映画『君が君で君だ』と舞台『君が君で君で君を君を君を』はいずれも男性目線のこじらせた恋愛モノが印象的でしたが、本作も恋愛要素はありますか?
松居:ちょいアリです。メインではないんですが、ほのかに1本2本走ってます。
―昨年の舞台のように、サプライズ演出は考えていますか?
松居:生身の人間でしか通用しない、演劇でしか表現できないものはいくつかあるので、そこは仕掛けとして使っていこうかと。例えば、リスナーにとってのナビゲーターは神のような存在なんですけど、その神格化されているものがひっくりかえるような仕掛けを考えています。
―出演者には演劇が素人のリスナーもいますが、どう作りこんでいきますか?
松居:出演者20人が、一緒にモノを作っていくという意識ですね。僕らは単純に演劇という表現をしているだけで、ラジオを聴いてきた歴史や魅力はリスナーに教わることも多いし、それぞれのキャリアは役者が役づくりでどうこうできるものではない。普通なら出会わないような人たちが、この企画があるからこそ同じ板の上で生きることになった。その地図を僕らが作ることになって、演出家冥利に尽きます。
―どんな舞台になりますか?
松居:不健全な劇団公演を福岡でやると、最初はみんな驚いてしばらくノーリアクションなんですよ(笑)。それが徐々に盛り上ってくるのが心地いい。演劇を見慣れている人でも驚くものにしたいし、見ていない人には衝撃を。久留米座に入って、「何だこの体験は!?」って思わせたいです。
―中学・高校時代を久留米で過ごされていますが、学生時代の思い出は?
松居:一番街で映画を観たことと、毎週土曜日に大砲ラーメンへ行っていたことかな(笑)。福岡からの電車通学で、西鉄久留米駅からはバス、中学3年からは自転車になりました。結構距離があったので、足にすごく筋肉がついたんですよ。
―久留米公演の際、本仮屋さんと石崎さんを連れて行きたいところは?
松居:まずは大砲ラーメンで昔ラーメンを食べる!久留米は豚骨ラーメン発祥だからね。
―地元福岡・久留米公演への意気込みをお願いします。
松居:福岡はみんな優しくて、「帰ってきた!おかえり!!」って喜んでくれるのが先。作品は二の次なんですよ。でも、ちゃんと面白いものを届けないと意味がないし、ガッカリさせたくない。凱旋だからこそ厳しく、「また来てよ」って言ってもらえるような作品にしたいです。
●プロフィール
松居大悟:1985年福岡県出身。久留米大学附設中高卒。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出を手掛ける。2012年「アフロ田中」で長編映画初監督。2018年「君が君で君だ」、ドラマ「バイプレイヤーズ」など枠に捉われない作風は国内外で評価が高い。