【 ユースプログラム2025「新しい演劇鑑賞教室」(後期)①レポ―ト】
【ユースプログラム2025「新しい演劇鑑賞教室」(後期)①レポ―ト】
■演劇作品の鑑賞と参加者同士の対話などを組み合わせたユースプログラム2025「新しい演劇鑑賞教室」後期が10/19(日)にスタートしました。
進行は前期に続き企画・監修の長津結一郎さん。イントロダクションは「今日は授業ではなく、できるだけ楽しくやっていきたい」の挨拶でスタートしました。
ほぼ初対面の参加者たちは、声を出さず誕生日順に並ぶバースデーラインゲームでアイスブレイク。少し和んだところで『何でもバスケット』が始まります。まずは椅子を人数分より1脚減らして円形に配置。円の中心で鬼がお題を出し、あてはまる人が他の椅子へと移動するルールです。最初の鬼が「大学生の人!」と声をかけると、なんと全員が移動。その後もあまりにスピーディにゲームが進むので、長津さんは「自分は好きだけど、他の人はそう思っていないものをお題にして」と指示。「英検2級以上の資格を持っている人」「30都道府県以上を訪れたことがある人」などの難題では移動者も少人数になり、お題を絞り込んで続けることで参加者のプライベートや嗜好が明らかになりました。
最後は6グループに分かれての推測ゲーム。長津さんから『ある食べ物』のお題を出されたグループが、その食べ物の推しポイント3つを選定して発表。残りの5グループがお題を当てるゲームです。ただし、5グループ中3グループが当てたら勝ちになるルール。推しポイントがわかりやすくても難しすぎても負けてしまいます。一番手のグループは「トースターで温めて食べたらおいしい」「おにぎりで人気の具材」「福岡の親御さんがパン屋で買ってくれたら嬉しい」と発表。回答は『明太子』が4グループ、『明太フランス』が1グループ。
正解は『明太フランス』だったので残念ながら負け。その後も偏った回答や間違いが続き、勝者ゼロという結果に。
長津さんは「同じことを聞いても、人によって受け取り方が違うのだということを体感できたのでは」とゲームの趣旨を説明。「午後から受講するプレレクチャーの講師は、社会学の研究者と言語聴覚士。各分野の専門家ですが、肩書だけに捕らわれず、別の視点から掘り下げて考えてください」とイントロダクションを締めくくりました。
■プレレクチャー「劇場で考える~わかりあうこととは~」
午後からは中会議室へ場所を移動し、一般参加者も含めた45名が参加。まずは一人目の講師、九州大学人間環境学研究院講師の井上智史(いのうえさとし)さんが登壇します。タイトルは『わかる・わかりあう・かわる』。社会調査論の視点からテーマを考察していきます。
「今から回答しづらい質問の例をスライドに挙げて問題点を解説していきます」と冒頭に説明した井上さんは、「あなたは女性が飲酒したり、喫煙したりすることをどう思いますか?」と書かれた質問をスライドに表示。回答は「1.賛成2.やや賛成 3.やや反対 4.反対」から選択せねばならず、「この質問では、飲酒は問題ないが喫煙には反対という回答ができず、1つの質問に対して2つの論点が存在する」と指摘します。
次に喫煙についての質問として「あなたは女性の喫煙は、品がないのでやめるべきだと思いますか?」を表示。「喫煙は健康に配慮してやめるべきだと考える人もいるが、この質問は女性の品性についてのみ尋ねている。回答者は一旦その問いの枠組みを受け入れざるを得ない」と質問する側に前提があると話します。
続いて実際に行われた社会調査の例※を表示。「父親が台所の手伝いや子どものおもりをすることについて、甲乙の意見どちらに賛成しますか?」という性別役割についての質問です。回答は、甲「台所の手伝いや子どものお守りは一家の主人である男子のすることではない」、乙「夫婦は互いにたすけ合うべきものだから、夫が台所の手伝いや子どものおもりをするのは当然だ」のいずれかを選択するのですが、井上さんは「1973年から2018年まで行われたこの質問にも母親が育児するという前提がある。45年を経て社会での家事・育児に対する意識が変化し、同じものさしでは計れなくなっている」と語ります。
※NHK放送文化研究所「『日本人の意識』調査」(1973年~2018年)
日常で交わされる「あなたのiPhoneのバージョンは?」という質問にも、相手がiPhoneを使用している前提が含まれていると実例を挙げると、参加者たちも納得した様子。井上さんは、「自分の問いかけに、常識や規範、前提が潜んでいることに気づくこと。そして時には自分のものさしを変えながら相互理解の可能性を広げ、わかるためにかわることが必要」と説きます。最後は「その繰り返しが他者の経験や語る意味を理解することにつながるのではないでしょうか」と問いかけて終了しました。
続いて、うきは市で『ことばの教室ことりんく』を運営しながら市民団体『どげんね!うきは』の共同代表も務めている吉岡麻衣さんが登壇。『分かりあうこととは何か』について言語聴覚士の視点も交えながら話します。
吉岡さんは参加者に「あの人、なんであんな言い方するんだろうって思ったこと、ありますか?」と問いかけ「私は、しょっちゅうあります」と回答。そして、「幼少期にコミュニケーションが苦手だったから、自分なら同じ悩みを抱えている子どもたちの味方になれると思った」と言語聴覚士の職に就いたきっかけを語ります。
次に自身が他者とのコミュニケーションで大切にしている「正義の反対は正義」という考え方を紹介。「立場や価値観が違うと、それぞれ守りたい対象が変わる。相手の意見が自分と違うと感じても、それは相手にとっては正義なんです。」そしてテレビアニメでお馴染みの名探偵のセリフを引用し、「真実はいつも一つではなく、真実は人の数だけあると考えることで物の捉え方が変わります」と伝えると、会場内からは感嘆の声が。「全盲の方は社会では障害者と言われます。でも、もし停電で突然世界が暗闇に包まれたら、困るのは私たち。障害とは、その人の中にあるのではなく、社会との関係の中で生まれる壁です」と吉岡さん。
私たちの現実は、自分の信念や経験を通して意味づけられている。だから相手を理解する前に、まずは自分がどんな『正義』や『真実』のレンズを通して世界を見ているかに気づくこと。「他者理解は相手との違いを知ることから始まる」と続けます。
そして「分かり合うことは完全に交わることではありません。お互いの価値観の違いを理解し、一定の距離感を保ちながら認め合い寄り添い、相手の存在に耳を傾ける。その繰り返しが、分かり合うことにつながります」と説いた後、「自分を知ることから始めて、あなたは誰とどのように寄り添いたいですか?」と静かに問いかけ、プレレクチャーを終えました。
続いて感想シェア会に移ります。今回は、各自スマートフォンで感想・質問を入力するオンライン形式。「大学生はスマートフォンを持っていることを前提として、オンライン回答で進行して心苦しいと」長津さんも苦笑い。
参加者からは他者理解・自己理解の気づきについての感想が多く上がった様子。数多くの質問から長津さんが2つを厳選し、お二人が答えます。まずは「相手を理解した気になっている人に対面した場合、どう対応したらいいですか?」の質問。
井上さんは、あるエピソードを紹介します。児童福祉施設の職員が周囲との関わりに難しさを抱える子どもに「あなたの気持ちをわかってあげたい」と声をかけると、その子どもは「わかられたくない。わかられたら自分が特別な存在ではなくなってしまうから」と返答したそう。「わかってほしくないと伝えた側が本当はどう感じていたのかを考えることが大事ではないでしょうか」と問いかけます。
続いて吉岡さんは「そういう人はみんなの気持ちをわかりたい人だと感じます。実際対面したらいい気分はしないと思う。帰宅して、なぜこの人にザワっとしたのか?自分はわかられたくないのか?特別でいたいのか?とセルフトークをします。そこに気づきがあったら面白い」と話しました。
最後の質問は「価値観が違う人と出会った時に、その人の意見を深堀りせずに受け入れるのは、価値観を受け入れ寄り添っていることになるのか?」。
井上さんは「障害学では〈異化統合〉という考え方がある。共生はみんなを同化させることではない。違うと思っても、共に在ることを目指して心を動かし働きかけることが、寄り添っていることだと思う」と回答。
吉岡さんは「境界線を飛び越えて相手をコントロールするのは、相手を否定すること。一定の距離を置き、違ったまま共にいることを許し合えるなら、寄り添っていると思います」と答えました。
長津さんは、「お二人の専門分野は違いますが、共通点もあったと思います。今回出た問いや答えを携えて『わかろうとはおもっているけど』を鑑賞した後に、またみなさんで考えましょう」と参加者に声をかけ、感想シェア会は幕を閉じました。
<参加者からの感想(一部抜粋)>
・同じ年代の人の集まりで、こんなにも違う意見を聞けるとは思わなかった。面白かった。
・わかり合う事の難しさを感じた。自分の意見を主張しながらわかり合えたら良いと思いました。
・みんな各自「価値観」が違うというあたりまえのことを実感する機会は普段ないので貴重な時間でした。
・講義を聞いて自分の考え方の新しい学びとなりました。人の話を聞く事、対話することを改めて楽しいと思いました。

